猫のともだちと闇にうごめくもの
このトラジマ猫「ともだち」のことは僕の日記や写真のページで何度も書いている。主従の関係を作らないようにしているので、あくまでも対等の「ともだち」だから僕は「ともだち」と呼んでいる。もう何年も前からのなじみの野良猫だ。
「ともだち」はいつもだいたい夕方になると、住宅街の中にポツンとある、ある家庭の専用墓地の石垣の上に座っている。猫好きのおばちゃんが、このあたりの猫にコンビニ袋を下げてキャットフードをやりに来てくれるから待っているのだ。そういう猫は何匹かいるが、他の猫はそのおばちゃんにしか寄ってこないのに対して「ともだち」は猫好きならよく知っていてちゃんと甘えに来たり、声を掛けたら返事をしたりする。
他の猫が餌目的で人間に近づくだけなのだが、この猫だけは人間と挨拶をしたり、遊んだりするのだ。僕は一度も餌をやったことはないが、僕が声を掛けると寄ってくるし頭をなでてやるととても喜び、そして首をゴシゴシと掻いてやるともっともっととねだる。
仕事帰り、なんだか今日はつまらない一日であったとか、面白くないことがあった日でも「ともだち」にあって首をゴシゴシ掻いてやって、グルグルとノドを鳴らすのを聞くととても和むのだ。
さて、先週のある晩。その日も会社の帰り、やはり日が落ちるのが早くなって、もう当たりは暗闇に包まれていた。その闇の中に墓場の隣の家の石垣の途中の石に「ともだち」がいた。まだ餌をもらっていないから、おばさんが来るのを待っているといった感じ。
僕はいつものように頭をなでてやった。それまで退屈そうにしていたが、僕が来たので伸びをしながら起きあがろうとした。その時である。友だちの回りの石垣に何か黒い固まりが。一つ…と思ったら二つ、三つ、四つ…。最初は岩の染みかと思った。しかし、その染みが動くのだ。ゾワゾワゾワと。ひぃ〜っ、ゴキブリだ。「ともだち」を護衛する艦隊のように、少し離れて待機しているのである。
僕は首を掻いてやることも即刻中止して、挨拶もそこそこに「ともだち」と別れて家路を急いだ。
ゴキブリが単純に気持ち悪かっただけではない。僕はそのゴキブリたちを見た途端に、そのゴキブリが「ともだち」を喰い殺すのではないかという恐怖を感じたのだ。それだけではなく、そのゴキブリは一瞬にして僕までも襲ってきて僕も喰い殺されてしまうのではないかと思ってしまったのだ。
実際にはそんなことはなく、冷静に考えたら、ただ「ともだち」が食べ残したり食べこぼしたキャットフードのおこぼれを狙って待っているだけだと思うのだけど。
最近ゴキブリが直接道路などを歩行している姿を見ることが多い。家のゴキブリも大半は外からやって来るものが多いという。それなら家の中で殺虫剤やゴキブリ取り器を仕掛けたところでどうにもならない。そんなことを思っていたから、瞬間的に喰い殺される!逃げなくちゃ!と思ってしまったのである。
すまぬ。「ともだち」を見捨てて自分だけ逃げ出してしまった。友情にひびが入っただろうか。
(写真はのどかな夏の昼下がりに「ともだち」を撮ったもの)
Comments